監理とは
- 法律的用語
- 工事監理とは建築士法の2条6項に「その者の責任において工事を設計図書と照合し、
それが設計図書のとおり実施されているかいないかを確認することをいう」とされています。
- 監理と管理
- 工事監理とは独立した立場(建築主の立場)で工事のチェックを行うものです。建設会社が現場監督を選任し、その現場監督が行う工事の管理と混同されがちですが根本的に違います。監理者(建築家)は建設会社の上に立って命令監督して建物をつくると誤解されている向きもありますがそうではありません。建設会社と監理者の間に上下関係はありません。
- 工事管理者
- 工事管理者である現場監督は多数の下請け業者や職人に指示して工事を進捗させます。現場監督は設計図書を随時見ながらも、建設中の建物だけに集中できるものではありません。工程の管理や金銭管理、職人の出面や建築材料の納品確認。安全管理や近隣対策など多くのことに対処しなければならないので、工事の管理に集中するのがどうしても難しくなりがちです。
- 監理者
- 監理者は現場監督とは別の視線で、それも建築主の側に立った目で工事監理を行います。
基本的に工事監理は監視ではありません。もし監視であれば、現場で仕事をしている職人の数だけ監理者を現場に常駐させて、職人の背後で注視しなければなりません。対費用効果を考えれば現実的には無理です。そのように監視しなければならないような建設会社には始めから工事を依頼するものではありません。建築家の行う工事監理は建設会社を疑ってするものではなくて、協働して良い建物をつくろうとするものです。
- 品質管理と監理者の権限
- 監理者は工事現場が設計図や設計意図とは異なっていると認められる時には直ちに建設会社に注意を与えます。しかし建設会社がこれに従わない時には建築主に報告するしかありません。品質管理は建設会社が行うものです。監理者は建設会社が正しく品質管理を行っているかを確認できるだけです。腕が立つ職人もいれば技量の劣る職人もいます。仕上がりの程度はどの程度の技能を持った職人を従事させるかを決定できる建設会社の責任です。監理者には職人を替える権限はありません。監理者の指示に応じなくても職人を罰したり解雇したり、下請け業者を替えたりする権限がないことをご理解ください。
- 工事監理契約
- 建築主と建築家との工事監理契約は建築家を建設会社の保証人にする契約ではありません。
あくまで建築家に工事の監理を委任する契約です。建築家に故意や過失がなければ建築家の責任は発生しないと考えられます。
建築主の中には仕上がり具合の上手下手まで監理者がその責任を負うと誤解されている向きもあるようです。
- 瑕疵担保責任
- 監理者は建設会社の負う瑕疵担保責任を連帯して負担する地位にはありません。工事の出来具合について建築主が不満足ないし不都合と感じるすべてについて責任を負う地位にはありません。建設会社の保証人ではないのです。
だからといって責任が建築家に及ばないとして工事監理をおろそかにするものではありません。
建築家は建物の設計から完成までの間最良の仕上がりを願い、誇りをもって業務を遂行しています。
- 良い建物を得るために
- 工事監理には以上のような限界があります。悪質な建設会社でなければ建築家を頼む意味はないとお考えでしょうか。そうではありません。
設計と施工そして監理を実質的に一人の技術者で行うとすれば、工事をチェックする者がいません。建設会社とは別の視線(建築主の立場)でチェックするのが建築家の工事監理です。どの建設会社に工事を発注しても建築家が監理すれば良い建物が建つというものでもありません。
技術力のある建設会社と有能な建築家による工事監理の双方が相俟って建築主は確実に良い建物を得ることができるのです。