建設コストと建主の要望
建物にかかる工事費は、建主の求める建材の品質や快適性を追求する度合い、設備機器選定の内容如何でコストが大きく変わってきます。
高価な建材が良いもので、低価格の建材の質が悪いという概念で建物のコストを考えてはいけません。
なぜ同じに見える建材で価格の違いが生じるのだろうというところから考えてみてください。
建物は大きく分けて、基礎から、構造、屋根、外壁、内装仕上げ、建築設備機器など多くの建材や部材から構成されています。
基礎や構造材などは耐震性を含め安全で安心できる生活をする為、それらの要素から費用を削減できないものとお考えください。
どのような建物でも永久にその形態を保てるものではなく、年月の経過により耐久性や防水性能が劣化し始めます。
建物は竣工して引き渡された時点から劣化が始まるものといっても良いでしょう。
しかし、そうとばかりはいえません。建物を出来るだけ長い間使用し続ける為に、
計画的な維持管理を行うことで劣化を阻止して高寿命化を図ることができます。
屋根材や外壁材の塗料の塗り替えやコーキング補修などがそうです。
建材によっては長い間退色や防水性能が劣らないように考えて製造されたものも多くあります。
そのような屋根や外壁材を使用すれば、維持保全にかかる費用が少なくて済みます。
頻繁に塗装を繰り返さないといけないような屋根や外壁材を使用すれば、
建物を使用し始めてから後も多くの費用がかかる場合が多々あります。
屋根や外壁材は造られている材料そのものが水を通しにくい性質を持ったものと、
水を通す性質(透水性や保水性)がある材料で作られているものが存在します。
後者は水を通さない為に塗装で防水性能を持たせています。
故に塗 装面が劣化して、放置すればたちどころに漏水という事態が必然的に起こることは容易に想像できます。
建築材料の高い安いの裏には、メンテナンスの費用がかかりにくいものと、
メンテナンスに相当の出費を必要とする要素が潜んでいる場合があることをご理解ください。
断熱性能を考えて見ましょう。断熱性能の劣る断熱材を使用したとしても、
厳寒期や猛暑期にエアコンをフル稼働させれば暑さ寒さをしのぐことが出来ます。
ここで考えて見てください。断熱材が薄く性能が劣る断熱材に対応する為、 初期投資としてのエアコンの選定も負荷計算をすれば、
通常のひと回りもふた回りも大きい機器の購入を強いられます。
それらをフル稼働するとそれに伴って光熱費も大幅に上がることはお分かりいただけるでしょう。
建物の工事費はそれらのことを充分に承知したうえで、維持保全に必要な塗り替え工事など頻繁でも良いと覚悟し、
エアコンもフル稼働して光熱費が高くなっても良いから、最初の建設工事費用は安く抑えたいと考えるのならそれも選択肢の一つです。
しかし、そのようなことを全く理解されず、低価格というコスト面だけで建物を建てられた方は、
その後にかかる維持保全費用、或いは劣化を放置して修繕工事に至ってかかる費用に恐らくびっくりさせられることになるでしょう。
建設コストとは建主の要求する面積と性能や仕上げのグレード、設備の機能によって変化するものであって、
一概に坪単価○○万円として決めるべきものではないということをご理解ください。
もしそのように工事費を決めて設計や工事を依頼されたとすれば、建物の総ての性能や機能、
住み心地まで人の手に委ね、安全安心な住まい、快適性を望むという建築主本来の欲求をも放棄したことになります。
工事費用から逆算して、性能や機能、快適性(住み心地)まで決まってしまうものであるべきでないと考えます。
住まう人(建主)自らが建物の性能や機能、品質を求め、それらを元にして価格が積み上げられて決めるべきものです。
優先順位の一番目に置くのは、デザインなのか、コストなのか、快適性なのか、
性能なのかということをはっきりと決めておく必要があります。
私たちアトリエフォルムは常に、メンテナンスのし易さやランニングコストなどを考え、
建主の予算とも考え合わせて出来る限り多くの情報を提示し、美観や快適性、構造や工法、建材や設備のグレードなどについて、
建主が何を大事にされたいかの優先順位を確認しながら、建主へのアドバイスを交えながら設計をしています。
どのような場合でも予算はあります。
予算が無いから面積を減らそうとか設備をやめようとかグレードを下げようなどとは考えないでください。
一方で予算は一円たりとも増額できないが、構造や設備、性能はなんでも良いから任せるので
面積だけは必要分を絶対に確保してほしいとも考えないでください。
あなたの望まれる工事費と望まれる面積、そして望まれる機能(性能)の大きな三つの輪を描いてください。
その輪が重なる領域が浮かびあがります。
その領域こそがきっとあなたが求めている建物ではないでしょうか。